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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)8413号 判決

原告

南雲由美子

被告

木村俊彦

主文

被告は、原告に対し、四三八万九二八〇円及びこれに対する昭和五八年七月一〇日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の、各負担とする。

この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、八〇〇万円及びこれに対する昭和五八年七月一〇日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年七月一〇日午後一〇時三〇分ころ

(二) 場所 東京都世田谷区上野毛二丁目先路上(以下「本件事故現場」あるいは「本件交差点」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(品川五七ふ四〇一六)

(四) 右運転者 被告

(五) 被害車 普通乗用自動車(品川五八ひ五二八一)

(六) 右運転者 南雲俊一(以下「俊一」という。)

(七) 被害者 原告

(八) 事故の態様 原告が俊一運転の被害車に同乗していたところ、後方から進行してきた被告運転の加害車が追突し、原告に後記傷害を負わせた(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

被告は、加害車を保有し自己のため運行の用に供していたものであり、また、安全確認義務違反の過失により、本件事故を発生させた過失があるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七〇九条により原告の後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷状況

原告は、本件事故により頚椎捻挫等の傷害を受け、頭部・頚部痛及び嘔吐のため三日間自宅療養を行つた後、昭和五八年七月一四日から三日間日産厚生会玉川病院整形外科において入院し、以降頚椎捻挫のため、同病院において通院加療を受け、更に、八月一三日以降、両眼調節機能障害及びその障害による遠視等の障害のため、同病院眼科において通院加療を余儀なくされた。そして、原告は、昭和五九年一二月二〇日、同病院整形外科、眼科において、症状固定の診断を受けたが、頚椎運動機能障害及び頚部痛並びに両眼調節機能障害・視野障害残存等の後遺障害が残り、自動車保険料率算定会自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)調査事務所は、原告の後遺障害につき、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一一級一号(両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの)該当との認定をした。

ところで、本件事故は、被害車の運転者俊一と被告との間で、本件事故直後、警察署への事故届けを出さない旨の合意がなされたうえ、昭和五八年七月一四日同人らの間で原告の傷害にともなう損害については、被告が任意に支払う旨の念書が作成された。ところが、その後間もなく被告は所在不明となり、原告への治療費等の損害金支払が滞つた。しかも、被告運転の加害車は任意保険未加入であり、自賠責保険の加入保険会社及び保険証明書番号さえ不明の状態であつた。その結果、原告は、受傷後二、三ケ月間は、被告からの前記支払金及び自らの蓄えによつて、前記病院で通院加療を受け、治療費を自弁してきたが、昭和五九年一二月中旬以降は、生活費にも事欠く状況となり、治療費自弁が困難なため通院加療の中断を余儀なくされた。そのため、原告は、受傷後昭和五九年七月一〇日までの実通院日数計八日間及び国民健康保険による通院加療を行つた昭和五九年八月中旬以降一二月二〇日の症状固定日まで実通院日数三日間の合計一一日間という不本意な通院加療を余儀なくされた(ちなみに、原告は、右症状固定日以降も頚部痛のため、マツサージ等の加療を余儀なくされている。)。

4  損害

原告は、次のとおり損害を被つた。

(一) 治療関係費 一七万八七四〇円

(1) 原告は、前記病院の治療費、診断書代(目薬代込み)として、一一万四二四〇円を要した。

(2) 遠方用及び近方用眼鏡二点代金 六万四五〇〇円

(二) 入院雑費 三〇〇〇円

原告は、前記入院期間(三日間)一日当たり一〇〇〇円の雑費を要した。

(三) 休業損害 一七〇万五五〇〇円

原告は、本件事故当時、専門学校(東京オペレーター学院)を卒業し、電話交換手として就職するため準備中であつたが、本件事故による傷害のため昭和五八年七月三一日まで自宅療養を余儀なくされ、雇い入れ先の都合上やむなく八月一日から東京信用金庫本店において電話交換手として勤務するに至つた。そして原告は、右勤務のかたわら、有給休暇等を利用して通院治療を受けていたが、一二月一九日以降、傷害による頭・頚部痛等の症状のため、休職を余儀なくされ、昭和五九年二月二八日休職期間満了のため右勤務先を退職するに至つた。原告は、右退職後は、身体の不調のため、昭和五九年九月下旬まで自宅療養を余儀なくされ、ようやく、一〇月中旬アルバイト等による労働に復帰するに至つた。したがつて、原告は、昭和五八年七月一〇日から昭和五九年九月三〇日までのうち、東京信用金庫に電話交換手として勤務中の昭和五八年八月一日から昭和五九年二月二六日までの七ケ月間を除く(ただし、昭和五八年一二月一二日から昭和五九年二月二六日まで病気欠勤)二九五日間(実際は二三六日間である。)休業を余儀なくされたものであり、その間の休業損害は、昭和五八年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均の女子労働者の平均賃金である二一一万〇二〇〇円を基礎とすると、次の計算式のとおり右金額となる。

(計算式)

二一一万〇二〇〇円÷三六五×二九五=一七〇万五五〇〇円

(四) 逸失利益 七五四万六〇〇〇円

原告には、本件事故による後遺障害として両眼調節機能障害(自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一一級一号該当)が残つたが、これにより二〇パーセントの労働能力の低下が確実であり、原告の就労可能期間は、二一歳から六七歳までの四六年間であるから、前記収入を基礎として、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除すると、原告の逸失利益は、次の計算式のとおり右金額となる。

(計算式)

二一一万〇二〇〇円×〇・二×一七・八八=七五四万六〇〇〇円

(五) 慰藉料 四一九万円

前記傷害により、原告が入通院したことにより受けた精神的苦痛を慰藉するためには一二〇万円、原告の後遺障害による精神的苦痛を慰藉するためには二九九万円が相当である。

小計 一三六二万三二四〇円

(六) 損害のてん補

原告は、自賠責保険及び被告から合計四一九万円から支払を受けたので、これを右金額から控除することとする(なお、被告が直接原告に支払つた金員は、全額自賠責保険に求償している。)。

小計 九四三万三二四〇円

(七) 弁護士費用 一〇〇万円

原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したが、そのうち右金額を被告が負担するのが相当である。

合計 一〇四三万三二四〇円

よつて、原告は、被告に対し、右損害の一部八〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である昭和五八年七月一〇日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実

2  同2(責任原因)の事実は争う。

3  同3(原告の受傷状況)の事実は争う。

原告は、本件事故による後遺障害として、両眼の調節機能障害を主張するが、調節力の検査は、被検者の主観的訴えに基づき求められるのであるから、詐病も十分にありうるのであつて、調節力に関する後遺障害の存在及び事故との因果関係を肯定するには、事故の態様、事故後の被害者の診療状況等を慎重に検討する必要があると考えられる。

本件事故は、自動車同士の追突事故であるが、本件事故による物損は、被害車の後部バンパーの破損等であり、その修理代金は合計四万三五〇〇円に過ぎず、事故の態様としては、軽微な部類にあることは明らかである。原告の入院日数は三日であり、実通院日数は八日である。このうち、通院して治療を受けたのは、昭和五八年七月一八日から同年八月二五日まで合計六回であり、残りの二回(昭和五九年七月一〇日、同年一二月二〇日)は、検査を受けただけであり、投薬も含め、何らの治療も行われていない。以上の通院日数は、原告の後遺障害の主張からみると、異常に短いものであり、また、眼球調節力の検査の結果によれば、すでに両眼に著しい調節力障害が生じているにもかかわらず、一〇ケ月以上も通院せず、何らの治療もしていないことは、経験則上からも考えられないことである。原告が眼科の診察を受けたのは三回に過ぎない。その結果によれば、原告の両眼には、構造上全く異常は認められていない。原告の整形外科の診察結果をみると、頚部硬直、頚部の痛み及び腱反射についての症状は、いずれも短期間の間に軽減ないし治癒していることがわかる。前述のとおり、原告は、その後昭和五九年七月一〇日まで一〇ケ月間以上も病院に通院していない。右症状の推移及び通院経過からみれば、頚部の傷害は軽微なものであつたというべきである。

原告が眼鏡を購入したのは、事故後一年以上経過した昭和五九年八月二五日であるが、原告に少なくとも昭和五八年八月一三日の時点で両眼に著しい調節機能障害の症状を示す検査結果が出ていることからすると、この点も非常に不自然である。

確率的にも追突事故により本件後遺障害が生じることは希有である。

4  同4(損害)の事実中、損害のてん補は認め、その余は知らない。

原告は、昭和五九年六月一三日の時点では、損害を二三〇万円と主張していたものであり、実際の損害を確定するにつき、右事実は重要な意味を持つといえよう。

三  抗弁

1  好意同乗類似の減額

本件事故は、被害車及び加害車が、ともに赤信号で停止中のところ、信号が青に変わつたので、被害車が前進を開始し、これに引き続いて加害車が進行を始めたところ、突如被害車が急停車したため、加害車が被害車に追突したものである。したがつて、被害車の運転手である俊一の予期しない急停車も本件事故発生の一因となつており、俊一と被告は、共同不法行為者間となるものである。俊一と原告の関係からして、原告は、俊一の好意同乗者であることは明らかであるから、好意同乗者である原告は、共同不法行為者たる俊一に対し、損害賠償請求をなす場合、好意同乗に基づいて、二割相当の減額をされるべきものであるから、原告の被告に対する請求も、右の減額分が当然に減額されるべきである。なぜなら、右のような処理をすることが、原告にとつて必ずしも損失負担させる結果にはならないし(俊一に対し、請求する場合、取得し得る金額を上限とすることはやむを得ない。)、共同不法行為者間の簡明な処理に資するからである。

2  弁済の抗弁

被告は、原告に対し、治療費として昭和五八年七月一四日から八月二四日までの間一〇万七九三〇円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(好意同乗類似の減額)の事実は争う。被告主張の事故原因は、全く事実に反する。赤信号停止中の先行車両数台とともに停止していた被害車に、無免許(飲酒?)運転の加害車が追突してきたものである。

2  同2(弁済)の事実中、原告が被告から昭和五八年八月二四日までに一〇万七九三〇円を受領したことは認めるが、被告は、右金員を自賠責保険から求償している。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実について判断する。

弁論の全趣旨によれば、被告は、加害車を保有し自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により原告の後記損害を賠償する責任があるというべきである。

三  同3(原告の受傷状況)の事実について判断する。

前記争いのない事実に、原本の存在、成立ともに争いのない甲五号証の一、二、第六、九号証、一五号証から一八号証まで、丙四号証から六号証まで、成立に争いのない甲七、二一号証、乙六号証、七号証の一、二、丙三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲一九、二〇号証、乙九号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を統合すると、以下の事実が認められる。

原告は、昭和五八年七月一〇日、本件事故により頚椎捻挫等の傷害を受け、嘔吐したり、頚部に重い感じがあり、湿布して様子をみたが、頚部痛が強くなり、めまいがあり、吐き気が軽減しなかつたため、一四日から三日間日産厚生会玉川病院整形外科に入院し、以降同月一八日、二一日、二五日、三〇日、八月一三日、二五日、同病院整形外科に通院し、八月一三日、昭和五九年七月一〇日、一二月二〇日、両眼調節機能障害及びその障害による遠視等の障害のため、同病院眼科において通院加療を余儀なくされた。調節力は、裸眼視力右眼〇・六、左眼〇・七、矯正視力両眼とも一・二、調節力両眼とも二・五ジオプターであつた。(眼をピント合わせできる最も遠い点(調節遠点)と最も近い点(調節近点)の間を調節域というが、屈折の状態(遠視、近視、正視等)でその数値が異なる。それを共通化し比較できるようにジオプトリーの単位で表したものを調節力という〔調節力=(一〇〇÷調節近点)-(一〇〇÷調節遠点)となる。*調節近点、遠点はセンチメートルの単位で、調節幅の単位はジオプターになる。調節力は、水晶体が加齢とともに固くなるため、その値が年齢とともに減ずる。この点は後述する。〕。

そして、原告は、昭和五九年一二月二〇日、同病院整形外科、眼科において、症状固定の診断を受けたが、両眼調節機能障害等の後遺障害が残り、自動車保険料率算定会自賠責保険調査事務所は、原告の後遺障害につき、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一一級一号(両眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの)該当との認定をした。

原告の治療は、実通院日数が極めて少ないが、これは、本件事故は、被害車の運転者俊一と被告との間で、本件事故直後、被告の懇願により警察署への事故届けを出さない旨の合意がなされたうえ、昭和五八年七月一四日同人らの間で原告の傷害にともなう損害については被告が任意に支払う旨の念書が作成されたが、その後間もなく被告は原告との連絡をとらずに転居したため、原告は被告に対する請求もできなくなり、原告への治療費等の損害金支払が滞つた。加害車は任意保険未加入であるうえ、自賠責保険の加入保険会社及び保険証明書番号さえ不明の状態であつたため、原告は、被害者請求の形で自賠責保険に治療費を請求することすらできず、その結果、原告は、受傷後前記のように通院加療をしたものの、生活に追われていたため、治療費自弁が困難等の事情により通院加療の中断を余儀なくされた。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

被告は、本件事故による原告の後遺障害について疑問である旨主張するが、交通事故による頭部外傷後遺症として調節障害が生じることは知られており、本件において、原告が詐病であるという事情は窺われないから、被告の主張は失当である。

四  同4(損害)の事実について判断する。

1  治療関係費 一七万八七四〇円

前掲甲一八号証、原本の存在、成立ともに争いのない乙三号証の一、三から七まで、成立に争いのない甲一〇号証の一から六まで、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲一〇号証の七、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記病院の治療費、診断書代(目薬代込み)として、原告主張の一一万四二四〇円を要し、遠方用及び近方用眼鏡二点代金として六万四五〇〇円を支出したことが認められる。

2  入院雑費 三〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、前記入院期間(三日間)一日当たり一〇〇〇円の雑費を要したことが認められる。

3  休業損害 一〇四万九五四〇円

前掲甲一九、二〇号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告は、本件事故当時、専門学校(東京オペレーター学院)を卒業し、就職のための活動中であつたが、本件事故による傷害のため昭和五八年七月三一日まで自宅療養を余儀なくされ、八月一日から東京信用金庫本店において電話交換手として勤務するに至つた。そして原告は、右勤務のかたわら、前記のように若干の通院治療を受けていたが、一二月一九日以降、傷害による頭・頚部痛等の症状のため、休職を余儀なくされ、昭和五九年二月二八日休職期間満了のため右勤務先を退職せざるを得なくなつた。就職期間中は、休職期間も含め賃金は全額支払を受けて、前記の就職期間すなわち、昭和五八年八月一日から昭和五九年二月二八日までの七ケ月間の賃金は九四万二八〇八円であつた。原告は、右退職後は、身体の不調のため、昭和五九年九月下旬まで自宅療養を余儀なくされ、ようやく、一〇月中旬アルバイト等による労働に復帰するに至つた。したがつて、原告は、昭和五八年七月一〇日から原告主張の昭和五九年九月三〇日までのうち、東京信用金庫に電話交換手として勤務中の昭和五八年八月一日から昭和五九年二月二六日までの七ケ月間を除く(ただし、昭和五八年一二月一二日から昭和五九年二月二六日まで病気欠勤)二三六日間休業を余儀なくされたものあり、その間の休業損害は、東京信用金庫の昭和五八年八月一日から昭和五九年二月二八日までの二一二日間の賃金九四万二八〇八円を基礎とすると、次の計算式のとおり右金額となる。

(計算式)

九四万二八〇八円÷二一二×二三六=一〇四万九五四〇円(円未満切捨て)

4  逸失利益 三〇九万八〇〇〇円

前認定の事実、前掲甲九号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

原告は、昭和三八年一月二八日生まれで症状固定時二一歳であり、本件事故により両眼の調節力が二・五ジオプターに低下するという後遺障害が残つたが、前記障害は、遠視、近視の眼鏡のかけ替えにより視力は矯正すれば、日常生活は支障が少なくなること、現在は当時の被害車の運転者である俊一の妻として家事に従事していることが認められる。前掲乙七号証の二によれば、眼の調節力は、二〇歳程度では標準の調節力は八ジオプトリーで、自動車保険料率算定会自賠責保険調査事務所の自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一一級の認定基準によれば、著しい機能障害は四ジオプトリー以下、三〇歳程度では標準の調節力は七ジオプトリーで、著しい機能障害は三・五ジオプトリー以下、四〇歳程度では標準の調節力は四ジオプトリーで、著しい機能障害は二ジオプトリー以下、五〇歳程度では標準の調節力は一ジオプトリー六〇歳程度では標準の調節力は〇・五ジオプトリーで、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一一級の著しい機能障害は認められないということになり、調節力というのは年齢により低下していくものであることが認められる。以上の事実に鑑みると、右調節力の低下により、原告は、二一歳から当初の一五年間は一二パーセント、その後の一〇年間は六パーセントの労働能力を喪失しているとみるのが相当であり、その間の逸失利益は、原告が主婦であることから、昭和五八年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均の女子労働者の平均賃金である二一一万〇二〇〇円を基礎とし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除すると、次の計算式のとおり右金額となる。

(計算式)

二一一万〇二〇〇円×〔〇・一二×一〇・三七九六+〇・〇六×(一四・〇九三九-一〇・三七九六)〕=三〇九万八〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)

5  慰藉料

本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告の本件事故により受けた傷害による入通院のための精神的苦痛を慰藉するためには一〇〇万円、前記後遺障害による精神的苦痛を慰藉するためには二八五万円が相当である。

小計 八一七万九二八〇円

6  好意同乗類似の減額の抗弁

被告は、本件事故は、被害車及び加害車が、ともに赤信号で停止中のところ、信号が青に変わつたので、被害車が前進を開始し、これに引き続いて加害車が進行を始めたところ、突如被害車が急停車したため、加害車が被害車に追突したものである旨主張するが、前掲甲七号証及び原告本人尋問の結果によれば、赤信号停止中の被害車に、被告運転の加害車が追突してきたことが認められるので、その余の点について判断するまでもなく被告の右抗弁は理由がない。

7  損害のてん補

原告が、被告及び自賠責保険から合計四一九万円の支払を受けたこと、被告が直接原告に支払つた金員は、全額自賠責保険に求償していることは当事者間に争いがないから、これを右損害から控除することとする。また、右の点につき当事者間に争いがないのであるから、被告の弁済の抗弁は理由がない。

小計 三九八万九二八〇円

8  弁護士費用 四〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告に損害賠償を求めうる額は、右金額が相当である。

合計 四三八万九二八〇円

五  以上のとおり、原告の本訴請求は、右損害金四三八万九二八〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和五八年七月一〇日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

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